========================================================================================================================================== お兄ちゃん、まだ起きてる? ゴメンね、こんな時間に…今日のこと、謝っておこうと思って どうしても外せない用事があったから、お兄ちゃんに美味しいご飯作ってあげられなくって 本当にゴメンね ううん、気にするよ だってお兄ちゃん、いつもあたしの晩ご飯、楽しみにしてくれてたんだもん 作り置きも考えたんだけれど、お兄ちゃんはやっぱり作りたての料理食べて貰いたがったから… でも大丈夫、明日からはちゃんと作るからね 別に、お兄ちゃんのこと嫌いになったとかそういうわけじゃないよ 本当だよ! どっちかっていうと… えへへ…ううん、何でもない 何も言ってないよ。うん、本当に何でもないから あ、そうだ。お昼のお弁当はどうだった?いつもと味付けを変えてみたんだけど… そっか、良かった。口に合わなかったらどうしようって思ってたんだけど、これで一安心ね もうそんなの気にしなくていいよ、家族なんだから。ね? 料理とか洗濯とか、あたしの取り柄ってそれくらいしかないし。 それに、お兄ちゃんはいつもあたしの料理を美味しそうに食べてくれるんだもの、あたしだって頑張っちゃうよ ところでお兄ちゃん さっき洗濯しようとして見つけたんだけど このハンカチ、お兄ちゃんのじゃないよね。だれの? あ、わかった!綾瀬さんのハンカチでしょう?においで分かるもん それで、どうしてお兄ちゃんが持ってるの? ええっ?!お兄ちゃん怪我したの?その時に借りたって…怪我は大丈夫なの? うん うん あ… うん …そっか、たいしたこと無くってよかった。 あのハンカチに付いてた血、お兄ちゃんのだったんだ。ちょっともったいない事したな。 こんな事なら、血の付いた部分だけ切り取ってから捨てれば良かった。 あっ、ううん、何でもないよ!ただの独り言だから そういえば、最近お兄ちゃん帰りが遅いよね 図書室で勉強? ああ、あの大人しそうなクラスメートの人でしょう?知ってる でもあの人って大人しいって言うより暗いよね。あんな人と話してたら、お兄ちゃんまで暗い性格に成っちゃうよ お兄ちゃん…昔はあたしの話ちゃんと聞いてくれてたのに… 最近はあまり聞いてくれないよね それに、あたしとも遊んでくれなくなったし、学校に行くのも、綾瀬さんと一緒に行こうっていうし… あんな人っ…!どうせお兄ちゃんのこと何にも分かってないんだから! お兄ちゃんのことを世界で一番よく分かってるのはあたしなの!他の誰でもない、あたし! あ… ごめん、怒鳴っちゃって お兄ちゃんがそういうどころで鈍いのは昔からだもんね。わかってるよ それはそうと、今日の晩ご飯どうしたの? そっか、外食したんだ。お金渡しとけばよかったね それで、一人でご飯食べたの? ふ~ん、一人で食べに行ったんだ… (くんくん) やっぱりあの女のにおいがする…お兄ちゃんの嘘つき! ねえどうしてそんな嘘つくの?お兄ちゃん、今まであたしに嘘ついたことなかったのに! そっかぁ、やっぱり綾瀬さんの所に行ってたんだ…へえ~手料理食べさせて貰ったの?それは良かったねっ! お兄ちゃんは優しくて格好良くて…でもちょっと雰囲気に流されやすい所があるのは分かってた… でも、お兄ちゃんはきっといつか、絶対あたしの気持ちを分かってくれるって思ってたから…ずっと我慢してたんだよ? それなのに…あたしに隠れて浮気ってどういうこと?!信じられない! やっぱりあの女がいけないのね! 幼馴染とか言ってすり寄ってくるけど、結局は赤の他人じゃない! あんな奴にはお兄ちゃんを渡さない!渡すもんですか! たとえ幽霊になって出てきても、まだ始末すればいいんだもんね え?どういう意味って…そのままの意味に決まってるじゃない お兄ちゃんにすり寄ってくる意地汚い女共は、みんなもうこの世にいないのよ ほら、あたしの手嗅いてみて?ちゃんとキレイにしてきたから、あいつらのにおい全然しないでしょう? うん、そうよ?今日お兄ちゃんの晩ご飯を作れなかったのは、邪魔な女を片付けきたから だって、お兄ちゃんはあんなのいらないもん お兄ちゃんの傍にあんなのがいたら、お兄ちゃんが腐っちゃうわ お兄ちゃんを守れるのはあたしだけ…お兄ちゃんはあたしだけ見てればいいの!それが最高の幸せだから… どうして…? どうしてそんなこと言うの? お兄ちゃんはそんなこと言わない!あたしを傷付けるようなこと絶対に言わないもん!そんなのお兄ちゃんじゃない! ああ、そっかぁ。あいつの料理食べたからきっと毒されちゃってるんだ。だったら早くそれを取り除かないと… あ… でも料理を食べたってことは、口の中もあいつに毒されてるんだよね 食道も、胃の中も… 内臓がどんどんあいつに毒されていくんだ じゃあ…あたしがキレイにしてあげなくちゃね。 お兄ちゃん?ご飯の時間だよぉ うんうん、今日は大人しく待っててくれたね、やっと分かってくれたんだ この前はゴメンね、お兄ちゃんを傷付けたくなかったんだけど、逃げようとするお兄ちゃんが悪いんだよ? 大丈夫、お兄ちゃんがあたしから逃げようとしなければ、何もひどいことしないから と言っても、その足じゃ満足に逃げられないと思うけど… 今日は豪勢に作ってみたよ!綾瀬さんの料理に対抗してみたの!お兄ちゃんに試して貰おうと思って… まずは、あたしの得意な厚焼き卵からね はい、フォーク。お箸はちょっと危ないからね、先の丸いフォークなら凶器にならないし それに、あたしの手にあるものはわかってるよね。変なことしたら、いくらお兄ちゃんでも容赦しないんだから どうぞ召し上がれ どう、おにいちゃん?綾瀬さんが作った卵焼きよりも美味しいでしょう? うんよかった!あたしの得意料理だもん、まずいわけがないんだけどね それじゃ次は、渚特製オムライスね。このスプーンで召し上がれ そのスプーン、あたしとお揃いなんだよ、嬉しいでしょう? って、綾瀬さんのオムライスと比べてどう?一工夫してやるから、前より美味しくなってると思うんだけど うふふ、美味しい?お兄ちゃんの嫌いなニンジンもこっそり入たんだけど、全然分からないでしょう? 綾瀬さんったら好き嫌いはだめっなんて言って無理矢理食べさせるんだもの。何考えるんだか… じゃあ次はロールキャベツね! これもあたしが研究に研究を重ねて作った最新作なんだから ねえ、これも美味しいでしょう?だよね!毎日あたしがお兄ちゃんの料理作ってるんだもの、お兄ちゃんが美味しくないなんて言うわけないもん! それじゃあ次はこの唐揚げね ほら、早く食べないと冷めちゃうよ! うん、どうしたの?そんなに首を振ったってダメよ、お兄ちゃんはあたしの料理を全部食べる義務があるんだから 大丈夫!お兄ちゃんはよく食べる方だから、このくらいの量はペロリだよね ほら、いいから食べてよ。漢方薬がすり込んだ、体にいいから揚げなんだから これを食べないと綾瀬のにおいが消えないじゃない!お兄ちゃんの体の中には、綾瀬の作った料理の痕跡が残ってるんだから たくさん食べて、綾瀬の作った料理の栄養を全部使えきらなきゃキレイになれないよ!そんなのいやでしょう? だから食べて。ね?食べてよ!食べなさいよ! あたしが食べてって言ってるのよ、どうして食べないの? そっか、おにいちゃん、あたしのこと嫌いなんだ。あたしがそんなに好きなのに… あたしのことが嫌いなお兄ちゃんなんていらない!もう、何も食べさせてあげないもん! え?そんなことない?本当に?そ、そうだよね! お兄ちゃんがあたしのこと嫌いなはずないもんね! 一度にたくさん食べようとするから食べきれないだけだよね? それじゃあ…今日はこれで最後にするね あたしの自信作…八☆宝☆菜!お兄ちゃん好きだったもんね、綾瀬の作った八宝菜… でも、あたしだって旨く作れるの!あいつより美味しい!お兄ちゃんが喜ぶような料理を… だから、食べてみて! どうかな?美味しい? よかった!お兄ちゃんが美味しいって言ってくれるのが一番嬉しいよ! それで、綾瀬のとどっちが美味しい? 大丈夫、怒ったりしないって。正直なお兄ちゃんの感想が聞きたいだけ 悔しいけど、綾瀬の八宝菜はあたしだって美味しいと思ってたもん… え…? そう…綾瀬の方が美味しいんだ… やっぱりお兄ちゃんは綾瀬の方がいいんだ もういい 最初からこうすればよかったんだ。こうすれば、だれにも邪魔されないんだ。 ずっとずっと、一緒にいようね… お兄ちゃんっ! ======================================================================================== ごめんね、遅くなって、今すぐ夕ごはんの準備をするから、テレビでもみながら見てて。 汚れしつこい、うん~取れない~ え? 手伝ってくれるの?でもいいよ、台所狭いから二人も立ったら身動きできなくなっちゃう。 これでいいかな。 今日はね、八宝菜にしようと思ってるの、中華好きでしょう? この音? うん、ちょっと包丁磨いでるの、なんだか切れ味が悪くなったみたいで。 びっくりした?もう~怖がりなんだから~ ねえねえ、思い出る?わたしと最初にあったときのこと、 あの時、公園でいじめられてたの、私が助けたのが始まりだったんだよね。 泣きやまないあなたをうちに送ってあげようとしたら、まさか隣の家だったなんて、 あの時は…まだこんな関係になるなんて思ってもみなかった。 あの日から、私たちずっと一緒だったよね?幼稚園に行く時も、学校に行くようになっても、 ごはんの時も、一緒のお茶碗とお箸使ってたものね。 そういえば、小さい時は一緒にお風呂にも入ってたよね。 でも…いつからかな…一緒に入らなくなったのは… 気がついたら…あなたは私より背が高くなって 私があなたを守ることなんてなくなって わたし…ちょっとだけ寂しかった 私の居場所が いつの間にかなくなってしまったみたいで だから…あなたに思いを打ち上げたとき もしだめだったら死んじゃおうって思ってた だって 私の居場所はいつもあなたの隣だけだもの え? 渚ちゃん? さっき 私の家に来てたわよ まだいるんじゃないかな この包丁 もうだめかも 刃毀れしちゃったし あれ どうしたの 本なんか読んで 珍しいじゃない 柏木さんに…勧められたから うん 知ってる 勉強教えてもらってるんだよね 私じゃなくて あの子から 試験勉強大変だもんね 一緒の学校に行くと思ってたのに いつの間にか 目指してたとこが違ってたなんて わたし…知らなかった ねえ どうしてさっきからほかの女の子のことばっかり話すの あなたの彼女は私でしょう ほかの女の子なんてどうでもいいじゃない 怒ってないわよ どうしてって聞いてるだけ ねえ 答えて ほかの女と私と どっちが大事なの うん そうだよね 私はあなたの彼女だもん ほかの女なんていらないよね そう言ってくれると思ってた 私…あなたの彼女でよかった だから ほかの女なんていらないよね 言葉通りの意味よ いらないものをあなたのそばに置いておく必要なんか・・・ さっきの電話誰からだった? 渚ちゃんから? 間違い電話じゃないの? あの女…まだ動けるのか ちょっと待てて わたしが様子を見てくる ありえない ざけんな あの女 ただいま ごめんね 心配かけて でも もう大丈夫 なにも心配いらないよ あれ どうしたの? 顔色悪いみたいだけど 何か怖いものでも見たの? ねえ どうして後ろに下がるの ねえ 待ってよ どうして? わ、私はあなたの彼女なのに どうしてそんなひどいことをするの そうっか あなたはなにも悪くないよ 悪いのは 逃げようとする その手足だよね 五寸釘ってすごいよね 人の体でも簡単に止めておくことができるんだもん あっ でも 片手だけじゃ引き抜いちゃうかもしれないよね だから もう片方の手も釘付けにしちゃうね すごい悲鳴 あなたのこの絶叫を聞いたの初めてかも でも わたしはあなたの悲鳴も大好き あなたのものは何でも好きよ だから もっときかせて ごめんね 怖い思いをさせて でも あなたのそばにいるためには 必要なことだから 仕方ないよね ええ? 渚ちゃんはどうしたって そんなの決まってるじゃない あれだけお仕置きしたのに あなたに電話をかけてくるなんて 肉親だから命だけは助けてやろうと思ったんだけど そう そのまさか だって渚ちゃんてば 妹のくせに あなたにべったりだもの 近親相姦は犯罪なのにね それに 渚ちゃんってば ひどいことを言うんだよ 私に向かって あんたなんかにお兄ちゃんは渡さないって言うのよ まるであなたを自分の所有物と勘違いしてるみたいじゃない だから 釘付けにしちゃった あんなチビでまわりに媚るしか能のない子があなたの妹だなんて 不幸にもほどがあるわ だから あの子の存在を消してあげたの あなたには私さえいればいい 私以外は何~もいらない 邪魔ものはみんないなくなればいいのよ だからね 渚ちゃんを私の部屋に釘付けにして置いたの 動けないようにって すっごい悲鳴だったな ギャーって感じで でも 私の家ってピアノが弾けるように防音仕様になってるでしょう だから 誰にも聞こえない 誰にもわからない だから思いっきり打ちつけちゃた 絶対大丈夫だと思ってたのに まさか右手にあんな大穴あげてまで逃げようとするなんて思ってもみなかった 女の執念って怖いよね だから ちゃんととどめを刺しておいたよ 心臓にも 五寸釘を何本も何本も何本も何本も何本も何本も何本も何本も あっ そうか あの子の血が生臭くて嫌だったんだね ごめんね 気がつかなくて ちょっと 手洗ってくるね くそ この女の血 ぜんぜん取れないじゃない さっきも取り残ったし  いつまで わたしの邪魔するつもりなの あの女だってそう 試験勉強するふりして あなたに近づいて あなたの隣に居座ろうなんて 絶対許せるわけないじゃない うん、そうよ 柏木さん あの人 しばらく学校に来てないでしょう だって わたしの部屋に釘付けにしてあるんだもの あんな不細工で トロくさくて 構ってくださいみたいなおどおどした子が あなたに似合わないの そんな邪魔な子は この世からいなくなればいいのよ あの子ったら わたしがお仕置きするたびにすごい声で泣き喚くの 助けて 助けてって でも あの子本当にあたまいいかしらね 私はあなたに近づかないように あなたに関連するすべてを放棄しなさいって言ってるのに 何度もあなたの名前を呼ぶのよ 名前を呼ぶことすら許されないのがどうしてわからないのかな だからね 声を出せなくしたの だってうるさいんだもん そうしたらあの子 汚れた体で わたしにすり寄ってくるの 助けてって顔して だから言ってやったの ブスは死ね ブスは死ね ブスは死ねって  あの醜い顔ったら なかったな あんな顔であなたに取り入ろうなんて 何考えてるのかしら あんな ブス あなたには似合わない あなたには 私が一番 だって あなたが私を選んだだもの ねえねえ もう匂わないでしょう あんな女の匂いをするものは あなたの近くには寄せつけないから 安心してね そんなに怖い顔しないで わたしはあなたためならなんだってできる あなたのそばにいるためなら 死んだっていい でも 怖がってるあなたの顔も好きよ あなたのことは好き 大好き 表情から 声から 髪の毛一本に至るまで 全部愛しいの 私のこと好きでしょう ねえ 好きって言って そうっか 震えて声が出ないんだ じゃ 首を縦に振るだけでもいいよ それだけでわたしは満足 どうして そこで横に振るの そこは横じゃないでしょう 大丈夫 わかってる 本当は縦に振りたいだけど どうしてか首を横に振っちゃうんだよね そうっか 体が言うこと聞かないだね もう世話が焼けるな じゃ その耳も 固定しちゃおうっか これでよし もう泣かないでいいよ 私がずっとそばにいてあげるから あなたの気持ちは 目を見ればわかるわ だって 私から目を離さずにいるんだもの わたしも恥ずかしくなっちゃう ごめんね おなかすいてるよね ご飯  すぐ持ってきてあげる はい お口 あ~んして あ 熱いかな 少し冷ましてあげるね うん これなら大丈夫  はい お口 あ~んして 口も開かないの 仕方ないな ちょっと待て 梃になりそうなもの持ってくるから あまりいいのなかったから 包丁を持ってきちゃった ちょっと切れちゃうかもしれないけど 我慢してね 刃毀れした包丁でも案外使い道あるんだね はい じゃ入れるね はい 涙が出るほどおいしいの うれしいな だったら もっと食べさせてあげる どんどん食べてね どうしたの うん?  何か言いたいの ちょっと待ってね 包丁を口に入れたままじゃ喋れないよね え? た…す…け…て? うん 助けてあげる あなたに近づく女たちから あなたを守ってあげる だから あなたは 私だけを見て ================================================================================================ こんばんは、御機嫌いかがですか? うふふ、お元気そうで、なによりです。 ほら、見てください。今日はこんなに月が綺麗ですよ。 懐かしいですね、最初にあなたと出会った日も、こんな綺麗な月の夜でした。 あれはきっと「運命の出会い」だったんですよ。 だってあのとき、私はクラスの子にいじめられていて、公園で泣いていたんですよ? そのときに、あなたは慰めてくれましたよね?見ず知らずの私を… でも私、恥ずかしくて顔を上げられなくて、あなたが飲み物を買いに行っている間に、逃げ出したんです。 あの時は、急にいなくなって、ごめんなさいね。 そして、あの日から半年後、学年があがって最初の日、またクラスメートにいじめられていた私を、あなたが助けてくれましたよね? ひと目見ただけで、「あの時の人だ」って分かりました。 あなたはおぼえてなっかたみたいですけど。 でもその時、運命って本当にあるんだって、おもったんです。 あの時、満足にお礼も言えなくて、ごめんなさい。 私、うれしくて舞い上がってて、なにを言っていいかわからなかったんです。 その後も、あなたは私のために、園芸部を手伝ってくれたり、いっしょに勉強してくれたり。 私は、あなたの優しさに、何度も救われました。 あなたのためなら何でもできる。あの時、そう思ったんです。 でも、あなたの優しさは、私だけに向けられたものじゃなかった。 私と付き合い始めてから、あなたはほかの女の子にも優しくて。 あなたには、私という恋人がいるんですから、河本さんも、遠慮してくれればいいのに。 いくら幼馴染だからって、毎日あなたと一緒に登校するなんて、そんなのおかしいです。 あなたも、河本さんはむかしからの付き合いだからって言って、聞いてくれませんでしたよね。 河本さんがそばに居る間、わたし、ずっと寂しかったんですよ? でも、あなたはそんなこと、ぜんぜん気づいてくれなかった。 それが怖くて、つらくて、いつか、あなたが河本さんのことが好きになってしまうんじゃないかって。 だからある日、勇気を持ってある決断をしたんです。 河本さんには、「いなくなってもらおう」って。 わかってます。私のあの時の決断は、決して社会に認められるものではないことくらい。 でも、わたしにとっての社会、ううん、世界のすべては、あなただけなんです。 あなたの代わりはどこにもいない。あなたの代わりは誰でもなれない。 あなたのために罪を被るというなら、私はどんな罪を被っても構わないんです。 あなたが私を…私だけを見つめてくれるんなら、どんなことだってします。 ううん、してきました、ですね。 私、あなたのおかげで、少し、自信がついたんです。 いじめられていたごろは、みんな私を笑ってばかりで、でも、最近は違うんですよ。 みんな、私にちょっかい出してきたりしないし、変に声をかけてくる人もいないですし。 授業中も、休み時間も、静かに時を過ごせていますよ。 ただ、ひとつ残念なのは、あなたといっしょに学校にいけないことですけれどね。 でも、家に帰れば、あなたはいつも待っていてくれる。 わたしはそれが今、一番うれしいんです。 あ、すみません、お水をやらないといけないですね。 花はいいですよね、手をかければ、ちゃんと育って咲いてくれる。 この花は、あなたとわたしが大事に育ってている花ですからね。 きっと、綺麗な花が咲くと思いますよ。 えっと、なんの話をしていたんでしたっけ? そうそう、河本さんの話でしたよね。 私、あの日の夜のこと、今でも鮮明に覚えています。 学校の裏庭に河本さんを呼び出して、一応話し合いを持ったんですよ。 「あの人は私の恋人なんだから、距離を置いてください」って。 そうしたらあの人、私のことを「泥棒猫」って言うんです。 河本さんはあなたのこと、ずっと前から好きだったんですね。 うふふ…でも、「泥棒猫」だなんて、お昼のメロドラマじゃあるまいし、ずいぶん古い表現ですよね~ わたし、思わず笑っちゃいました。 言葉はともかく、河本さんの態度が、頑なでしたから。 なんとなく予想は付いてたんです。「話し合いなんて、無駄だ」と。 だから私、あの人を殺すことにしたんです。 うふふ、でも、おかしいですよね。 河本さんは、私が出してきた園芸用のスコップを、叩く道具だと思ってたみたいですよ。 だって、腕を上げて、頭をガードするんですもの。柔らかそうなおなかががら空き。 かたい石が混じっていることもある土を掘り返す道具なんだから、最初は突き刺すに決まっているじゃないですか。 その後、あの人の中身をちゃんと掘り返しておきましたけどね。 今はたぶん、校庭の花壇の肥料になってると思いますよ。 でも、一番困ったのは、渚ちゃんでしたけどね。 あなたの妹だから、少しぐらいは大目に見てあげないとって、思っていたんですけれど。 あなたが家に帰らなくなったから、ずっと私のことをかんさつしてたみたいですよ。 最後には「お前がお兄ちゃんを監禁してるんだ!」なんて、言い出すんですもの。 監禁なんてしてませんよね。あなたはただ、私と一緒にいてくれるだけなのに。 やっぱり、あなたをあの家から遠ざけるのは、正解でしたよね。 あんな妹さんと一緒にいたら、あなたは一生、囚われの身ですもの。 それでも、あんまりにもしつこいから、この前、私の部屋に招待したんですよ。 あ、そういえばあなたも、一緒にいましたね、ごめんなさい。 あの時の渚ちゃん、すごく血眼ですよね。 お父さんとお母さんがいない時に来てもらってよかったです。 本当にあの子てば、天井裏から床下まで、隅から隅まで探そうとするんですもの。 あんな野蛮な子を家に上げたことを知れば、ふたりとも卒倒するでしょうしね。 あ、ごめんなさい。あんな子でも、あなたの妹さんですものね。 大丈夫、渚ちゃんには手を出していませんから。 でも、あの子、本当にあなたを探していたのかしら? 目の前にあなたがいても、ぜんぜん気づかなかったですものね。 その上、あなたを見て「悪趣味」だなんて言うんですもの。 わたしあの時、思わず刺し殺してやろうと思ってしまいました。 でも、あなたの目の前で、そんな残酷な光景を見せるわけにもいきませんから、私、ちゃんと我慢しましたよ。 多少姿形が変わったからって、わからなくなるなんて、あの子も「お兄ちゃんっ子」だったわりには、大したことなかったんですね。 あきらめて帰るときの悔しそうな目、おかしいを通り越して、かわいそうでした。 渚ちゃんはまだ、私のことを疑っているみたいですけど、私はもう気にしません。 だって、あなたはずっとここに居て、私だけを見つめてくれてるんですから。 その吸い込まれそうな黒い目で、その、やさしい笑顔で。 こんな真っ白な顔になっても、私はあなたのことをちゃんと愛せる。 あの子たちと私とでは、あなたを愛する次元が違うんですよ。 あなたと一緒に、花を育て咲かせるのは、私の夢だったんです。 あなたに根付いた花も、あと、二、三日もすれば咲くと思います。 ようやく、私たちの願いが、叶うんですね。 あなたを養分に育ったこの花は、いったい、どんな綺麗な花を咲かせてくれるのかしら? 本当に、楽しみですね。うふふ… それじゃ、おやすみなさい。 永遠に、あなたを愛しています。 いい夢を、見てくださいね。